青と口笛に寄せられて
「だけど、私は東京よりこっちの方が合ってる気がしてます。あっちにいるとどうしてもセカセカしちゃって。流されて自分がどうしたいかなんて考えるヒマもなくて」
「そうか」
「電車も路線が入り組んでて分かりにくいし、買い物とかには便利だけど物が溢れすぎて選択肢が多くて、なかなか決められなくて。仕事だってそうです。とりあえずで就職した会社で、上司に言われるままにやって」
「しかも、彼氏には浮気されたっていうね」
「あはは……。痛いですよねぇ、ほんと」
グビッとお酒を飲んで、プリンを頬張る。
程よい硬さで、甘さもちょうどいい。
口に入れた瞬間とろけて甘さが広がるよりも、こっちの方が好きだ。
「俺は場所は別に関係ないと思うけどね」
と不意に啓さんのつぶやきが聞こえて、私は隣のベッドに顔を向ける。
彼はテレビを見たままだったので、横顔しか見えなかった。
「東京での経験があったからこっちに来てもやっていけてるんでないの?よくまぁ、あれだけの繁忙期に転がり込んできてイチから仕事を覚えたもんだと感心してるべさ」
「…………褒めてくれてますか?」
「たぶん」
たぶん、かい。
そこは褒めてる、って認めてくれたって。
「どんくさいし、客への対応も世間話ばっかりだし、メシを食う時いまだにいちいち感動してるし、犬にはアメしかあげないし、まだまだ仕事に関しては言いたいことも山ほどあるけど」
「す、すみません……」
説教タイムかしら、とガックリしていると、啓さんがいつの間にか私を見ていた。
あの青くて綺麗な瞳で。
「犬と、犬ゾリが心から好きなんだってことと、仕事が楽しいっていうのは伝わってるから、それでいいと思う」