青と口笛に寄せられて
ありがとうございます、って元気よく仕事の時みたいに言えたら良かったのに。
でもなんだか言えなかった。
ビジネスホテル特有の落ち着いた照明の下で、私は口をつぐんで彼を見つめることしか出来なかった。
この人は普段言わないだけで、けっこう色んな私を見てくれていて、そして頑張りを分かってくれてるんだなって思ったから。
そうしたら胸がいっぱいになって嬉しくて、また好きの気持ちが増えてしまった。
「東京で無くした居場所は、ここで見つかったか?」
答えはひとつしかないよな、という含んだ問いかけを彼がしてくる。
私がなんて答えるか、もう分かってるみたいに。
紋別のあの場所に初めて行ったあの日、私は確かにこう言った。
東京に帰りたくない、居場所が無い、と。
それはもう、過去のこと。
「見つかりました」
非常に清々しい気持ちだった。
その言葉に嘘はなかったし、自然にこぼれる笑顔も本物だ。
私の笑った顔を見て、啓さんも笑ってくれた。
うーん、ヤバいな。
2人きりのこの空間でこんな素敵な笑顔を見せられたら、勢いでもいいから告白したい気持ちになってくるではないか!
でもそれをしてはいけないとブレーキをかけるのは、麗奈さんの存在があるからだ。
絶対に忘れちゃならない大きな存在。
このまま見つめ合うのは危険だと私の脳が判断したので、ベッドから降り立つ。
「ちょっと髪でも乾かしてきます」
洗面所に備え付けのドライヤーがあったはずだから、いったんそこへ避難しよう。
そう思って足を踏み出そうとしたら、床に自分が置いたはずのシーツにつまづいて啓さんのベッドにダイブしてしまった。