青と口笛に寄せられて


私が突然倒れ込んできたせいで、啓さんが持っていたビール缶が滑り落ちる。
幸いほとんど飲んでいたからか、中身は僅かにしかこほれなかったのでちょっとホッとした。


「すみませんすみません!!仕切りをまたいでしまいました!!ほんっとーーーにすみません!!」


半ばパニックになりながら謝り倒し、体を起こして離れようとしたら啓さんに腕を掴まれてそのままベッドに押し倒された。


急に視界がくるりと回転してフカフカのベッドに寝転がる形になった私は、状況が理解出来なくてひたすら目を瞬かせるしか出来ず。
そこへ覆いかぶさるように啓さんが上から現れた。


顔の距離の近さもそうだけど、この体勢ってかなり大変なことになっているんじゃ……。


バクバク音を立てる心臓をよそに、啓さんが落ち着き払った様子で口を開いた。


「仕切りをまたいだ罰として、質問に答えろ」

「は、はい!?」


青い瞳を見てはいけない、と私の中の誰かが警鐘を鳴らす。
それに従って目をそらすけれど、目の前いっぱいに啓さんの顔があるからそれもうまく出来ない。


「わ、私に答えられる質問ならば…………」

「深雪の好きな人って、新庄さんなんだべ?」


…………………………え?シンジョウさん?


新庄さんって、仕事仲間の新庄さん?
30代半ばの長身の小太りの新庄さん?
ちょっと気は弱いけど力持ちな新庄さん?
それ以外に新庄さんっていないよね?


━━━━━何がどうしてそうなった?


完璧に目が点になっている私には気づかず、啓さんは言葉を続けた。


「ずっと気になってたんだわ。彼女持ちの人が好きなんだべ。あの職場で当てはまるのは新庄さんしかいない」

「えーっと…………」


どうやって言い逃れようか。
まずは新庄さんではないことを伝えた方がいいのだろうか。
それより先にこの体勢をやめてほしいと伝えるべきなのか。
パニック状態のままで、優先順位を決めようと必死に頭を働かせる。


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