青と口笛に寄せられて
「それは大いなる誤解です!新庄さんじゃありません!啓さん、ちょっとどいてくれませんか……」
よいしょ、と彼の腕から逃れようと体をよじると、それを阻むように腕に力を入れられてさっきよりも動けなくなった。
ひぃっ!
もう嫌だー!
生き地獄!これぞ本物の生き地獄!
微妙に潤んできた目をごまかそうにも、両手を押さえられているので出来そうにもない。
啓さんは逃がす気は一切ないらしい。
どれだけ私の好きな人が気になるんだ!
「じゃ、一体誰なんだよ?常連客とか?」
「もういいじゃないですか!私のことは!」
「気になるんだわ」
「こんなことして麗奈さんに怒られますよ!言いふらしますよ!天罰が下りますよ!」
ヤケになって叫ぶように訴えたら、急に手を押さえられている力が緩められた。
それ見ろ!彼女がいるのに後ろめたくなったんだろう!
からかうのが得意な小学生みたいに、やーいやーい、と言ってやった。
「いいですか、啓さん!麗奈さんのことが大事ならこういうことはどうでもいい女にしてはいけないんです!そんなことも分からないようでは麗奈さんに愛想つかされちゃいますよ」
「ちょっと意味が分からないんだけど」
眉を寄せて、首をかしげる啓さん。
意味が分からない、ってこっちのセリフなんですけども!
「だから、麗奈さんという彼女がいながらこういうことをするのは……」
「誰が彼女だって?」
「え?ですから、啓さんの彼女が麗奈さんで………………」
「……………………………………は?」
一瞬、間が空いた。
私と啓さんの間に、沈黙が訪れる。