青と口笛に寄せられて
10 自分のこと、家族のこと。
里沙は私がここへ来た時のように、手蔵夫妻をはじめ、従業員みんなに温かく迎え入れられた。
胸元がざっくり空いた薄手のニットにダメージデニムのショートパンツという服装は、この土地の人たちからすると「あらぁ、やっぱり都会っ子ねぇ」という感想に行き着くらしく。
泰助さんなんかは正直に
「目のやり場に困るべ」
と若干ニヤついていた。
その彼の頭を激しく小突いたのは言うまでもなく裕美さんで。
和やかな雰囲気が妹もお気に召したようで、なかなかのご機嫌な顔でみんなに挨拶をしていた。
ひとまず荷物を部屋に置いてこよう、と私が里沙を2階に連れていこうとしたら、啓さんに呼び止められた。
「深雪、俺はちょっと犬の様子を見に犬舎に行ってくっから。もしも何かあったら、そこにいる」
「はい、分かりました」
うなずいて、妹を促しながら階段をのぼる。
部屋に着いて早々、里沙はバッグをドサッと床に下ろすとベッドに寝転がった。
「あー、疲れた〜。バスで4時間半はキツイわ。ということで、今日は姉ちゃんが下の布団ね」
「はいはい」
せっかく里沙のためにフカフカの布団を敷いておいたのに、彼女はベッドの方がいいらしい。
こういう小さいワガママも昔からよく押し通され、優先順位は妹の方が上だ。
あまりそういうのも気にならない私の性格にも原因はあるのだけれど。
「ねぇ、姉ちゃんって啓次郎さんと付き合ってるの?」
「え!?なんで!?」
出た!実写版コナンくん!
私の焦りは声の大きさに表れてしまい、いつもの倍ほどのボリュームで聞き返した姉を、里沙は小馬鹿にしたように笑っていた。