青と口笛に寄せられて


「あぢぃ……、あぢぃ〜よ〜、深雪ちゃ〜ん」


道産子は暑さに弱いのか、それとも政さんだけが暑さに弱いのか。
おそらく後者だと思うのだけれど、彼はいつも「あぢぃ」を繰り返す。今日もその通りだった。


麦わらのテンガロンハットを違和感なくかぶっている彼は、信じられないくらい似合ってしまうから不思議だ。
チャラさももちろん増している。


政さんの横で涼しい顔をしていつも通りに仕事をこなす啓さんは、日本ハムファイターズのキャップをかぶって白いTシャツからなかなかに鍛えられた二の腕を出して、犬たちに飲ませる水を運んでいた。


「あぢぃ〜……、あぢぃ〜」

「政、うるさい。ダレるな。こっちまで暑くなってくるべさ」

「実際本当にあぢぃもん」

「暑くない」


啓さんと政さんのやり取りも、毎日の恒例になりつつある。


私はというと4頭の訓練犬を携えて、これからちょうどトレーニングに向かうところだった。
最近、訓練犬のトレーニングは私の役目になった。
1頭1頭の細かなしつけは啓さんが行うけれど、走ることに関してのしつけはほぼ終えている4頭。
だから指示を聞いてその通りに動けるよう、私はひたすら彼らに台車を引かせる役目なのだ。


昼間は観光客向けに慣れさせるために触れ合いをして、夕方は台車を引いて走る。
訓練犬はみんな若い犬なので、体力も有り余っているようだ。無論、カイもその中にいる。
カイは相変わらず観光客には吠えることがある。
だけどそれは確実に減りつつあり、見知らぬ人に会っても吠える回数はだいぶ抑えられてきた。


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