青と口笛に寄せられて
「どうしてもっと早くに話してくれなかったんですか?私は東京に戻る気なんかありません。ここに骨を埋めるくらいの覚悟で働いてます!」
「………………ごめん」
まさか謝られるとは思っていなかったので、少し驚いてしまった。
啓さんは申し訳なさそうに続けた。
「深雪がそう言うのは目に見えてた。だから話すのを躊躇ってたんだべ」
「…………どういうことですか?」
「俺の父親は、もうこの世にはいない」
「え?」
あまりにも突然の話に頭が混乱していると、彼は「昔の話だ」と少し寂しそうに笑った。
「カナダに行ってた時期があるのは話したべ。その時に、父親が持病の心臓病が悪化して倒れたんだわ。カナダと日本の距離は、ハッキリ言って遠い。結局俺は死に目にも会えなかった」
「そ、そうなんですか…………」
「父親は反対していた。俺がカナダに行くことを。せめてちゃんと話し合って納得させることが出来ていたなら、後悔しなかったと思う。深雪には同じ思いをさせたくないと思ったんだ」
私の知らない啓さんが、まだいた。
壮一郎さんみたいな素敵なお兄さんがいるし仲も良さそうだったから、家族はみんな仲良しなのかと思っていた。
でも、数年前にそんなことがあったとは……。
思いもしなかった。
「深雪」
啓さんは私の名前を呼び、そして目を合わせた。
「何かあってからでは遅いんだ。家族は大切にしてほしい」