青と口笛に寄せられて
美味しい料理に舌鼓を打っていると、裕美さんが私のコップにビールを注いできた。
ちょっとイタズラっ子のような満面の笑みを浮かべながら。
「ふふふ、滝川さんお酒好きだべ?そんな顔してるもの」
「えっ?あ、あら〜」
どうしましょ、その通りです。なんちゃって。
ちゃっかりナミナミに注いでもらって、グイッとビールを一気に飲み干す。
そういえば遭難してから一滴の水すらも飲んでいなかった。
ん?遭難……?
あ、遭難!!
私ったら!!
遭難したことを忘れてた!!
「どうしたの?滝川さん。ムンクの叫びみたいな顔して」
私の顔を見て今にも吹き出しそうに泰助さんが尋ねてくる。
えぇ、えぇ、そうでしょう。
鏡で確認しなくても分かる。今の自分の顔。
相当目も口も開いてるに違いない。
「わ、私……、昼間に助けてくれた人にお礼を言いたかったんです!!」
そうだ。
お礼を伝えたくてここに来たいって思ったんだよ。
それなのにもう私の脳内はすっかり犬ゾリ体験に意識がいってしまって、遭難したことなんて羽をつけてお空へ飛んでいってしまっていた。
ポカンとした表情で、その場にいた全員が私を見つめる。
そして思い出したように泰助さんが笑顔になり、当然とでも言いたげに答えてくれた。
「なんだ、てっきりもうお礼は言ってたのかと思ってたわ。君を助けたのは、そこにいる啓だよ」