青と口笛に寄せられて


「……で、このレントゲン写真を見ていただくと分かる通り、膝のこの部分にうっすらと亀裂が入ってるの見えます?ここなんです、骨折箇所。診断名としては膝蓋骨骨折と言いまして、深雪さんの場合綺麗な骨折ですので手術はせずに保存療法を取らせていただこうと思ってます」


40代と思しき男性医師から詳しい怪我の内容の説明をしてもらいながら、私はお母さんと一緒に赤べこのようにフンフンと話を聞いた。
膝蓋骨骨折ってなんだ?初めて聞いた。


「全身打撲につきましては、1週間程度様子を見まして何も無いようであれば問題はありません…………が、頭痛や腰痛など何らかの症状が出てきましたらすぐに言ってください。頭のCTを見る限りでは問題は無さそうですね」

「はぁ……分かりました」


これ以上頭が悪くなっても困る、とやや気落ちしつつ返事をする。


「この骨折の程度から察するに、おそらく2週間から4週間ほどでギプスは外せると思います。そうしましたらリハビリ開始になります」

「え!そんなにあとからリハビリなんですか!?」

「骨折ですからね。でも軽いほうですよ、これでも」


淡々と話を進める先生に待ったをかけたいけれど、他にもわんさか患者さんがいるからか私の細かい小言には付き合ってくれない。
適当にあしらわれた。


しょんぼりする私を尻目に、お母さんがグイグイ質問を投げかける。


「先生、私どもの家は東京なんです。そちらでの治療を希望した場合は、紹介状か何かは書いていただけますか?」

「お、お母さん?」


ギョッとして隣のお母さんを見つめるけれど、私のことなんかお構い無しだ。


「転院に必要な手配は全てしますから、どうか先生、お願いします!」

「それは可能です。手術するわけでもないし、ご家族の希望があるのならば対応致します。……じゃあ転院希望出てる、ってことで相談員呼んで」


先生はあっさりと承諾し、付き添いの看護師に声をかけて「じゃあ、話はこれで終了です」とレントゲン写真が映し出された画面を切り替え、にっこりと営業スマイルを浮かべた。
こうなると、もう出ていくしかない。


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