青と口笛に寄せられて
ぐんぐんスピードに乗っていく。
もう目をつぶってないと耐えられないくらい風が冷たい。
ホワイトアウトにしか見えない真っ白な視界なのに、このワンちゃんたちと、そして操縦してるあの人には前が見えてるんだろうか?
寝袋スタイルで犬ゾリ体験しちゃってる私。
なにこれ、一体何が起こってるの?
ちょこんと顔だけ出した状態で、時々体を持っていかれそうになりながら耐える。
「ハー!」とか「ジー!」とか、よく分かんない言葉が上から降ってくる。
何かの指示らしい。
そのつど犬たちは応えるように方向を変える。
ボコン、と小さな雪の塊を乗り越えると、ジンジンお尻が痛んだけど、文句も言ってられない。
そう、私は遭難したのだから━━━━━。
景色と同様、脳内が真っ白になっている私の上から、今度は口笛が聞こえてきた。
こんな状況なのに口笛とか平気で吹けちゃうなんて、地元の人はすごい余裕だ。
メロディーとかもだいぶしっかりしてる。
そのちょっと切ないような、優しいような音色を奏でる口笛を聴きながら、目の前を軽快に走る4頭の犬たちを眺めた。
「深雪っ!深雪〜!!」
半泣き状態の歩美が名前を叫びながら私に駆け寄ってくるのが見えた。
彼女の姿を見た途端、嬉しくて、そして自分が情けなくて。
ブワッと涙が出た。
「あゆみぃぃぃ」
寝袋スタイルから脱出できていないせいで、涙も鼻水も拭えない。
ぐしゃぐしゃになった顔のまま、歩美を出迎えることになった。
「良かったぁ〜!死んだかと思った〜!」
「うんうん、無事でなにより」
感動の再会の最中、顔の見えないあの人が体についた雪を払ったあと私のそばまでやってきた。
そして、無言で寝袋を解いていく。
寝袋のジッパーを下げ、体に巻きつけたベルトを外してくれた。
さっきまで勢いよく走っていた犬たちは、それぞれその場に座ってじっと待っている。
そのうちの1頭がひょいと顔を上げ、のそっと私の足元にやって来た。スリスリ、と捻挫をした右足首のあたりに顔を寄せてくれる。
もしかして、本能みたいなので怪我をしてるって分かっててやってるのかな。
ハスキー犬って怖いイメージだったけど、案外可愛いかも……。
青い目をしたその犬を、私はじっと見つめてしまった。
「カイ」
ゴーグルもネックウォーマーもそのままに、彼が低い声で私の足元に寄ってきた犬を呼ぶ。
「あ、あの!」
ありがとうございました、って言おうと思って彼に声をかけたけど。
彼は聞こえなかったのか、こちらを振り向くこともなく犬たちを引き連れてすぐにいなくなってしまった。