青と口笛に寄せられて
東京での私の生活と、対極にあるようなここでの日常。雪で煌めく世界で、働く人たちもみんな輝いて見える。
私に気づいた従業員のみなさんが、口々に「おはよう」と笑顔で声をかけてくれた。
「あら?もしかしてあなたが夕べこっちに泊まったお客様ですか?」
私の背後からサクサクという足音と共に聞こえてきた明るい女性の声。
振り向くと、私よりも少し年上といった感じの笑顔が素敵な女の人が立っていた。
手には雪かきスコップ。
そのスコップが不釣り合いなほどに、かなりの美人さんだった。
「おはようございます!初めまして!東京から来ました、滝川深雪です」
「初めまして。加藤麗奈です。私はお宿担当だから昨日は会いませんでしたね。…………ふふっ」
ふふっ?
笑われた?
どこに笑うところがあったのかしら、と頭の片隅で考えていたら、「ごめんごめん」と彼女はパタパタと手を振った。
「啓が今日の犬ゾリであなたを乗せなくちゃならないって、さっきソリの準備してたから。どんな子かなーって思ってたんだわ。なんとまぁ、可愛い子じゃないの」
「いやいや、ちっとも……」
可愛いのはあなたでしょうよ、麗奈さん。
合コン行ったらいの一番に番号とか聞かれるくらい、美人ですよ。
そんな私の心のツッコミをよそに、彼女はその美しい顔を近づけてきた。
「足、怪我してるんしょ?大丈夫?」
「捻挫したみたいで。踏ん張れないんですよね……。でもどうしても犬ゾリには乗ってみたくて」
「楽しいよ〜。自分で操るともっと楽しいんだけどね、残念!でもマッシャーが啓なら、きっとあなたもジェットコースターに乗った気分になれると思うわ」
「まっしゃ?」
聞き慣れない言葉が出てきたぞ。
首をかしげていると、「麗奈!」とどこからか声がした。
それに応えるように麗奈さんが右手を挙げる。
「あ、啓!こっちよ」
「あ」
犬舎の中から、井樋さんが顔を出しているのを見つけた。
「おい、ちょっと手伝いに来てくれよ」
「はいはい、今行くから〜」
人遣い荒いのよね、と麗奈さんはボヤいて「またあとでね!」って私にウィンクしてから犬舎の方へ走っていった。