青と口笛に寄せられて
本当はかまくらを作るつもりで外に出てきたんだけど。
どうやらそれはやめた方がいい気がしてきた。
だってみなさん、めちゃくちゃ忙しそうに働いてるんだもの。
その中でまったりかまくらなんて作った日には、それこそ井樋さんに毒を吐かれそうで怖い。
せめて雪だるまくらい作っておくか?
と、邪魔にならないようなところでチマチマ雪玉を転がしていたら、上から
「おい、あんた。こっち来い」
という抑揚のない声が降ってきて、ぐいっと腕を掴まれた。
よろけながらも立たされた私が面食らっていると、そこには井樋さんの姿。
昨日と同じ、愛想のない顔で私の腕を掴んでいる。
当然のことながら、今日も彼の瞳は青い。
着ているブルーのダウンジャケットと同じくらいに、鮮やかに。
綺麗な瞳だ。
「こっちとは……どっちへ?」
「宿。暇そうだからあんたも手伝ったらいいべ」
「あ、はぁ……、私で良ければ……」
どんなことを手伝わされるのかと思いきや、初めて足を踏み入れた宿のキッチンに連れていかれて驚いた。
どうやら料理の仕込みの手伝いらしい。
すでに2人の中年の女性が慌ただしくキッチンの中で戦っており、私の顔を見るなり「来た!救世主!」と目を輝かせた。
あれ、なんかこの2人、顔が激似。
「足が痛くても料理くらい出来るしょ。まさか包丁握れないとか無いべ?」
いささかバカにしたような視線を送ってくる彼に対して、私は「料理くらい出来ます!」と頬を膨らました。
「一人暮らししてたから自炊でしたもん。ひと通りの家事はこなせますよ」
「なら頼んだわ。よろしくな」
うまい具合に乗せられ、ハッと気づいた時にはすでに井樋さんはいなくなっていた。
「おほほほ、啓くんったらスパルタ〜!あ、私、山家聖子」
「おほほほ、仕方ないべさ、啓くんだもの〜!私は、山家好子」
残された私に、中年の女性2人が同じ顔をぐるりと向けてくる。
激似な上に、激似な口調、同じ名字。
なるほど、双子の料理人。
どっちが聖子さんでどっちが好子さんなのかはもはや分からない。
でもとりあえず「頑張ります!」と腕まくりをしてキッチンに立った。