青と口笛に寄せられて


5分ほど歩いて開けた場所へ出た。
木々が生い茂る中に、車が1台余裕で通れるくらいの一本道。
その真ん中で立ち止まる。


昨日助けてもらった時に乗ったバスケットの中に身を沈めた私は、井樋さんにされるがままベルトで身体とソリをしっかり固定され、ちょっとやそっとじゃ動けなくなった。


「あっ、携帯忘れちゃった!」


ジャケットのポケットをまさぐって、思い出す。
さっきまで着ていた白いダウンコートのポケットに入れていたから、着替えた時に抜いておくのを忘れてしまったのだ。
チラリと井樋さんを見上げると、「まさか取りに行くとか言わないよな?」という威圧感をゴーグル越しに醸し出していたので、それを言うのは止めておいた。


しまった〜。
私って本当に抜けてる。
こんな滅多に出来ない体験を、カメラにも収めることが出来ないなんて。


「いいか。携帯なんか気にしてる暇があったら景色見てた方がよっぽど感動すっから」

「は、はい……」


こりゃ井樋さんは携帯をいじる人が嫌いなパターンだな。
それなら忘れてきて正解だったかも。
これ以上彼を怒らせてはいけない気がしたから。


「カーブがあると遠心力で体持ってかれっから、適当にどこか掴んでおけよ」

「はい」

「急に体調が悪くなったりしたらすぐに言え」

「はい」

「ハイク!」


え、ハイク?
聞き返そうとしたら、その前に体がグインッと後ろへ転がった……ような感覚になった。
実際はそうじゃなくて、井樋さんのひと声で犬たちが走り出したのだ。
ものすごいスピードで。


「ぎゃあああああ」


ジェットコースターに乗ってるみたいな感覚に陥り、無意識に情けない声を上げていた。

< 37 / 257 >

この作品をシェア

pagetop