青と口笛に寄せられて
「道警の者です〜。怪我はしてないですか?ご無事で良かったです。ちょっとだけお話うかがいますね。さぁ中へどうぞ」
泣き顔の私と歩美におそるおそる話しかけてきた若い警察官。
そりゃそうか。
遭難したんだから警察沙汰になるわよね。
トホホ、という気持ちで「はい」と返事をしたら警察官に促されて、歩美に支えてもらいながら歩いて小さなログハウスに向かった。
最後にチラッと見えた、私が包まれていた寝袋のようなもの。
赤いあの袋に、文字が印字されていた。
それを忘れないようにしよう、と胸に刻んだ。
私の命の恩人がいる場所。
『TEKURA DOGSLED』
テクラ・ドッグスレッド。
「北海道へは初めて来たんです。はい、東京生まれの東京育ちです。あそこに座ってる、歩美っていう子に誘われて……。
え?なんであそこにいたのか、って?……すみません。私、筋金入りの方向音痴でして……。気がついたらみんなからはぐれていて、歩けば歩くほど知らないところに出ちゃって。てゆーか、どこもかしこも知らないところだらけだったんですけどね。
携帯も繋がらないし、だんだん吹雪になってきて、これは動かない方がいいんじゃないかって判断して。それでおっきな岩があったんで、そこの陰に座ってました。
はい……、死ぬと思いました。カチコチに凍った状態で見つかって、死体で東京に帰ることになるんだって思ってました。でも、そんなの嫌で。ポッケに入れてたホッカイロで手先だけあっためて。どうにか過ごしたんです。
…………え、 旅行に来た理由?
えーと……。話したくないです、すみません……。
あ、名前と年齢ですか。それなら答えられます。
滝川深雪、25歳です。無職です」