青と口笛に寄せられて
体を縛るものはもう解かれているっていうのに、私はしばらくソリの上に乗ったまま呆然としていた。
口をポカンと開けたまま。
あ、でもだらしなく口を開けてるっていうのは井樋さんには見えていないだろう。
ネックゲイターがしっかり口元を覆っているのだから。
そんなわたしを放置して、井樋さんは自身のゴーグルを額に上げて青い瞳を覗かせた。
そして口元を隠しているネックゲイターを顎下まで下げて顔を出す。
今まで走っていた犬たちのそばに行き、そして彼らの頑張りを労うようにしゃがみ込んだ。
ワンワン!バウバウ!……みたいな感じで、4匹の犬たちがさっきまで従順に大人しかったのが嘘みたいに吠え出して、そして井樋さんに絡みつく。
喜びを全身で表す犬の可愛さと言ったら。
表現のしようがない。
「はいはい、分かった。よく頑張ったな」
どこかで聞いたことのあるセリフを口にしながら、彼は犬たちの体を両手で撫でる。
どこで聞いたんだ、そのセリフ。
えっと、えっと……。
考え込む私の視界に、ちょっと驚くような光景が目に飛び込んできた。
井樋さんが笑っている。
それはそれは犬たちを愛しそうに見て、そして優しく撫でて、屈託のない笑顔を浮かべていたのだ。
あらららら。
これはまた随分と素敵な笑顔じゃないですか。
あなた笑ったら男っぷりが上がるんですね。
これを仏頂面で隠すなんてもったいない。
ぼんやり彼の笑顔を見つめ続けていたら、井樋さんはリュックからペットボトルのお水とアルミ製の器を2つ取り出して雪上に置いた。
器にお水をこぼれるくらいの勢いで注いで、それを犬たちに差し出す。
水だ〜!喉乾いたぜ!
ってな声が聞こえてきそうなくらいに、犬たちは我先にと器に群がった。