青と口笛に寄せられて
「疲れたべ。はい、あんたの」
犬たちの様子に釘付けになっていたら、いつの間にか私のそばまで来ていた井樋さんが、小さめのシルバーのタンブラーを渡してきた。
彼も全く同じものをもうひとつ持っている。
ホット烏龍茶、と聞いてもいないのに中身を教えてくれた。
「ありがとうございます」
受け取って彼の顔をじっと見てみたけど。
もうすでにさっきの笑顔は見事に消え去り、いつもの無愛想な表情だった。
うーん、幻でも見たような気分だ。
「ジェットコースターみたいですね、犬ゾリって」
「なんだそりゃ。あれでジェットコースターなんて言ってたんじゃ帰りはもっと大変だわ」
聞き捨てならないその「もっと大変」って言葉に、私は目ざとく反応する。
「さ、さらに凄いことになるんですか?」
「まぁ、行きよりカーブも多いし。思う存分叫んだらいいべさ」
「………………」
「自分で操縦するとスピード感も景色もまた違うように見えるけどな。でも今回は仕方ない」
「そんなに簡単に1人でも乗れちゃうんだ……」
「並の運動神経があれば」
体験ツアーがどんな内容なのか、実はそこまで知らなかったりして。
今の彼の口ぶりだと、ちゃんとした体験ツアーに参加すると犬ゾリを1人で操って乗れるようだ。
私は足を捻挫してるから、それが出来ないのが悔やまれる。