青と口笛に寄せられて
犬たちと触れ合う井樋さんは、やっぱり笑っていた。
どうやら幻ではなかったらしい。
犬には笑いかけるらしい。
じゃれ合ってペロペロ顔とか舐められてるけど、妙に嬉しそうだし。
ちょっと近くで彼の笑顔を拝んでみたいな。
どれどれ。
好奇心の塊と化した私はタンブラーを持ったまま、そーっと彼らに近づいて、おそるおそる声をかけてみた。
「あのぅ」
「なに?」
まだ笑った顔のままで、彼が振り返る。
わーお、やっぱり素敵な笑顔じゃないの。
もったいない!ほんとにもったいない!
あなた笑ったら絶対モテますから!
……なんて言えるわけもない。
「今日はカイはお休みなんですね」
4匹の中に、昨日懐いてくれたカイの姿はいない。
あの子がソリを引っ張ってくれるもんだとばっかり思っていたので、いなかったことに驚いた。
「あいつはまだ訓練犬だからな。お客さんを乗せる時はちゃんとした奴って決めてるんだわ。昨日は遭難者がいるって連絡来て慌ててたから、とりあえずカイを連れ出したけど……。……ん?」
話している途中で、突然井樋さんが眉を寄せる。
もちろん、笑顔は今しがた消滅致しました。
「あんた、ハスキー犬飼ってんのか?よくカイの顔覚えてるな。観光客はこいつらの区別つかない人がほとんどなのに」
「いえ、犬は飼ったことないですね。カイの顔なら覚えてますよ?昨日会いましたもん。…………あ、ついでに言うなら、昨日先頭走ってた2匹のワンちゃん、今日は左右逆の位置で先頭走ってますね!」
あまり深く考えずに答えていたら、彼が少し驚いたように目を見開くのが見えた。
その青い瞳が、明らかに動揺してガン見してくる。
なんで?
私、そんなに変なこと言った?
あまり見つめないでくれませんかね……。
何度も繰り返しますが、整った顔の人に免疫がございませんので…………。