青と口笛に寄せられて


「あんた、意外と犬に関係する仕事とかいいかもな。そこまで分かるなんて、ちゃんとこいつらの顔を見てやってる証拠だわ」

「えぇっ?あ……、はぁ……」

「ま、もともとあんた犬っぽいしね」

「褒めてます?」

「褒めてると思うか?」

「………………」


突然、犬に関係する仕事がいいんじゃないかとか、私を犬のようだとか、ここまで言っておいて褒めてないとか。
この人、私がお客さんだってことを完全に忘れてるよね。
でも昨日と今日で口の悪さにも慣れてきちゃったよ。


「もしもまた北海道に来ることがあったらここに来いよ。犬ゾリの楽しさ、時間かけてちゃんとしっかり教えてやっから」


井樋さんは言いながら犬たちが空にした器を拾い、私の手から飲みかけのタンブラーを取り上げると


「帰るべ。タイムリミットだ」


と告げた。













帰りのコースは、行きのコースとえらく違っていた。
違うっていうか、過酷だった。
ボコッとした雪の塊とか小刻みなカーブとかが大量に散りばめられていて、果敢に飛び込んでいくから避けようもない。


ひたすら私はバスケットの端っこを両手で握りしめ、ジェットコースターによくある浮遊感みたいなものに耐え続けた。
当たり前だけど、ぎゃあぎゃあ騒いでしまった。


だけど、もう最後の方には私の声は笑い声に変化していた。
楽しすぎて、笑いが止まらなくなったのだ。


「おいおい、大丈夫かよ」


と、後ろで犬たちを操縦する井樋さんがつぶやくのが聞こえたけど、それに対しても「あははは」と笑い声で答えておいた。
きっと彼はもっと心配になったんじゃなかろうか。


でも、それほど楽しかったんだ。
変わりゆく景色に目を向けることも、生い茂る樅の木が流れてゆく様も、犬たちの足音も、さっき飲んだホット烏龍茶の温かさも、何もかもが私を笑顔にした。


北海道に来て良かった。
そんなことを思った。



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