青と口笛に寄せられて


送ってもらった私は裕美さんに別れを告げて、高速バスに乗った。


そこから約4時間半、バスに揺られながら死んだように眠った。
朝の5時に起きて精力的に活動したのもあり、体が疲れていたらしい。
一度も起きることなく札幌駅に到着して、そこで隣の席のおばさんに「終点よ」って起こされて。
慌ただしくバスを降りた。


札幌駅はとても立派で、レストランやファッション関連のお店が入っているし交通の便も相当いい。
東京みたいに電車の路線がごちゃごちゃして混乱するってこともないし、ちょうどいい都会感。
それを歩いて味わいながら、新千歳空港までの電車の切符を券売機で購入した。


切符を握りしめながら、行き交う人たちの中で。
私は1人、立ち止まった。


━━━━━このまま、本当に東京に帰るの?


他の誰に問いかけるでもなく、自分に。
私の心の声に耳を傾ける。


帰ったら後悔しない?
単なる傷心旅行ってことで終わっていいの?
楽しかったんでしょ?
もっといたかったんでしょ?


興味が出てきたんでしょ?
北海道という場所と、犬ゾリに。
あの疾走感はそう簡単に忘れられないよね。


━━━━━いや、でも。
私みたいな甘っちょろい女が見知らぬ土地でうまくやっていけるのかな。
また途中で放り投げて、逃げ出したりしないかな。


ううん、しない。
逃げ出したりしない。
逃げない。


東京で体験したあの出来事は相当こたえたけど。
それを凌ぐ楽しい体験を、私は身体で、肌で、五感で感じた。
だから、大丈夫。きっと乗り越えていける。


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