青と口笛に寄せられて
私は身を翻し、駅ビルに入っている文房具店を訪れた。
そこで履歴書とボールペンと「滝川」の印鑑を購入。
構内を歩き回って地元の人にも声をかけて、証明写真を撮れる場所を探す。
スピード写真の場所を教えてもらって、そこで即席で写真を撮った。何度目かの取り直しを経て、納得のものを選び取る。
バスターミナルで紋別行きの高速バスの時間を確認。
まだあと2時間もある。
1日に4本しか出ていない高速バスは、片道4時間半ほどかかる。
あちらに着くのは21時半くらいだろうか。
そこからタクシーか何かでテクラ・ドックスラッドに行くとしても、深夜になるのは間違いない。
札幌市内のどこかで1泊なんて考えは一切無い。
今日中にまたあそこに戻りたい。
その一心だった。
カフェに寄って、コーヒーを飲みながら履歴書を書く。
履歴書なんて大学生時代に就活のため書いて以来だ。
2枚ほど書き損じたけど、それらしいものは出来上がった。
自慢できる資格も特技も無い。
あるのはやる気だけ。
少し顔色が悪く見える写真を履歴書に貼り付けて白い封筒に入れた。封筒は大事にしまう。
心臓がドキドキしていた。
こんな突拍子もないことを思いついた自分が、まるで私じゃないみたいだと冷静に思う。
ただひとつ、胸に決めていることがある。
きっと北海道に旅行に来たのは、決まっていた運命なのだ。
そうなるように出来ていた。
私が犬ゾリに魅せられて、そこで働きたいと思うようになるというのは、当然なのだ。
だから、抗うことなく。
がむしゃらに頑張ろう。
そう胸に決めたのだ。
恋愛に現を抜かして痛い目を見たのだから、しばらく自粛して仕事に打ち込みたい。
心から楽しいと思える仕事を、頑張りたい。
私は変わりたいんだ。