青と口笛に寄せられて
お客様が帰り、ひと通り片付けも終わり。
夕日が辺りを染め始めた時刻。
今夜の宿泊客が続々と到着するのを外で見届けていたら、啓さんに声をかけられた。
「買い物行くべ」
「へ?買い物?」
1日の疲れがどっと押し寄せてきて、もうすっかりオフモードに切り替わった私はなんのことやらと目をぱちくりさせる。
「あんたのその防寒着と防寒具一式、全部借り物だからな。今日ちゃんと揃えっぺ」
そういえばそんなことを朝に言っていたような。
ここで働くのだから、いつまでも借りているわけにもいかない。
いったん家に入って部屋からお財布の入ったバッグを引っ張り出し、急いで外に戻る。
さっきまで玄関のあたりにいた啓さんの姿は無く、キョロキョロしていると駐車場の方から「おーい」と彼の呼ぶ声。
振り返ると白い車に乗った啓さんが、運転席から顔を覗かせていた。
車の助手席に乗り込むと、雪を踏みしめるようにゆっくり発進した。
「本当は札幌に行けば種類も多くて選び放題なんだけどな。遠いから市内で済ませっから」
「暖かければ何でもいいです」
寒さをしのぐことが出来れば、ファッション性は特に重視するつもりは無い。
むしろマイナス10度っていうのが当たり前に毎日訪れるこの土地で、なるべく動きやすくて暖かい服を着たいとそれだけが切なる願いだ。