青と口笛に寄せられて
「政は究極の女たらしなんだわ。なんとなく深雪ならすぐ引っかかるような気がしたから」
またしても相当失礼なことを言っているということ、啓さん本人は気づいているのだろうか?
そりゃ私は男を見る目は無いですけどね!
可愛い後輩に彼氏を寝取られるような女ですよ。
「しばらく恋愛は自粛してるんで、その辺のことはご心配なく」
「自粛?さては男に騙された経験でもあるんじゃ……」
「いいから!さっさと片付けましょ!」
妙なところ鋭いっていうか、ピンポイントでつついてくるっていうか。
この手の話題を避けてるっていうことに気づいて欲しい。
「私、勝手な思い込みで政さんっておじ様だと思ってましたよ」
「いいや。俺と同じ27だ」
私に釘を刺されたからか、啓さんは自分の仕事に戻っていた。
使い終わったハーネスを犬舎の壁に綺麗に並べて掛けている。
そうか。
若者は少ないって思ってたけど、そう考えると意外と少なくはないのかも。
『女たらしの政』と頭の中にインプットし、さらに自分に言い聞かせる。
ここに恋愛をしに来たんじゃないのよ、と。
「とにかく、政には気をつけろよ。うっかりキスされても知らないからな」
「…………は?キス?」
穏やかではない内容に、ギクッとして振り向いたものの。
それを言い放った当の本人は犬舎を出ていってしまったあとだった。
うっかりキスだなんて、そんなドラマみたいなこと有り得るわけ?
いや、むしろ外人気質とかそういうことかもしれないし。
あ、ほら啓さんが8分の1カナダ人の血を引いてるみたいに、政さんも何かしら外国人の血が入ってたりして。
名前も、ピエール・政・ロバンとか、そんな凄い名前かもしれないよね。
すっかり平和な私の頭は、そんなおめでたいことしか考えていなかった。