青と口笛に寄せられて
警察の事情聴取なるものを終えた私は、歩美とログハウスを出たあとキョロキョロ辺りを見回した。
あるのは小さな観光案内所と、ちょっと寂れたお土産屋さん。
それと、簡易トイレ。
さっきまでいたログハウスは、軽食とかを出してくれる観光客向けの休憩場みたいなもののようだ。
行き当たりばったりのこの旅。
大した計画もなく道内を渡り歩いている私たち。
なにもかも場面で決めてきた。
「どうしよっか。バス何時に来るか聞いてみようか」
ムートンブーツでサクサク歩く歩美の背中に、私は声をかける。
「ちょっと行きたいところあるの」
「え?どこ?」
「テクラ・ドッグスレッド」
「はぁ?どこよ、それ」
「それは分かんないんだけどさ」
ますます訳が分からない、といった様子で歩美がしかめっ面になっている。
そんな彼女を連れて、私は暖房の効いた観光案内所へ入ることにした。
中にはちょっとしたテーブルがいくつか並んでいて、そのうちひとつにチラシが何種類か並べられていた。
札幌雪まつり、流氷見学ツアー、小樽運河、カヌーツーリング、ワカサギ釣り、鍾乳洞ツアー、スノーモービル体験……。
雪国ならではの内容満載。
その中に、私が探しているものがあった。
「犬ゾリ体験……」
1枚のカラーのチラシ。
そこには間違いなく、「主催・TEKURA DOGSLED」と書いてあった。
「あ、これ?深雪、犬ゾリ体験したいの?さっき助けられた時乗ってたもんね〜!楽しかった?」
パッと表情が明るくなって、歩美が笑顔で尋ねてきた。
「カゴの中に入ってて、楽しさはよく分かんなかったんだけど……。助けてくれた人に、ありがとう、って言うの忘れちゃったからさ。伝えたくて」
「真面目な深雪らしいね」
「ううん。ちっとも真面目じゃないよ」
恋人にフラれたから、って会社まで辞めた私は、どこからどう見たって真面目とは言えない。
だけど、命の恩人にお礼だけは言いたかった。