正義の味方に愛された魔女1
「百合さん、今日は閉店後、依頼のご予約入ってますか?」



「ん?ボランティア?
今日は無いわ、何かあった?」



「実は、会っていただきたい人が……」



「きゃー!沙耶ちゃん、なぁに?彼氏ぃ?
そっか、いーよ、お店締めたら三人でご飯でも一緒に行く?」



「い、いや、いやいや、違っ、違うんですよー!
一人で話を進めないで下さい、もう!

最近よく行くバーのマスターなんですけど
凄く素敵な人なんです。

それで、カウンターごしにお話したことしか無いんですけど。

百合さんに、その、マスターを……」



焦る沙耶ちゃんにガシッと腕を掴まれて、視えたのは細身の男性。



「はいはい、分かった分かった、視てあげるよ。

でも解ってると思うけど、視ても話せない中身が多いんだからね」



なんだか、沙耶ちゃんの気になる人が……すごく気になる。

大事な従業員に変な虫が付くのは困るけど、とにかくすごく気になる。

テンションが上がって突っ走ってしまった。



いけないいけない…心は読めても空気読まないクソババアじゃんこれじゃ。



「今日、お店閉めたら連れてって?

私は飲まないけど奢るから♪

ふふっ…
ねぇ、そのマスターって沙耶ちゃんから見てどんな人?」



「ど、どんな人って……。

素敵な人です。

29歳で、大人で優しくて…イケメンさんです」



わかりやすく赤くなって可愛いんだからもぅ。

ちょっとからかってしまいたくなる。

ドS女では無いはずだけど…。



「う~ん……つまりは優男?タラシだったりしない?

沙耶ちゃん、男慣れしてないから心配だなぁ。

バーのマスターとか、難しそうじゃない?

女のお客さん、たくさん来そうねぇ」



「だっ!だから、百合さんにお願いしてるんです!」



「はぁ………。

誰にでもこんなこと手伝ってなんかやらないんだからね?

だいたい、若者の恋愛に首突っ込むババアになんてなりたくないよ。

かわいい沙耶ちゃんの頼みだから視るんだからね?」



「はぁい、百合さん優しいから大好きです。

ババアなんかじゃありませんよ!私の第二のお母さんです。

今晩ヨロシクお願いしま~す」







プライベートで心を視たり聴いたりした内容は、
当然、信頼できる人物以外には話さない。



信頼できても、個人の心の中だ。
勝手にあれこれ伝えることはできない。

真実をありのままに伝えることは、
プライバシーの侵害以外の何物でも無い。

伝える言葉を選んだりオブラートで包んだりしなければ……。



結果、視えた事柄の内の、ほんの少しが依頼者に分かるだけなのだ。

それだけ、人間には他人の心がわからない、
わからなくてもいいことが、たくさんある、
と言うことなのだろう………。









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