「恋模様は雨模様」
2

「雨宮君、ご苦労様上がってください」オーナーの声でバイトの終わりに気づく。エプロンを外しカウンターから出ようとしたとき、「今夜は大雨になるそうだから傘を持っていきなさい」僕のビニール傘をみたオーナーが優しい笑顔で紺色の傘を差しだしてくれた。「ありがとうございます。お疲れ様です」

カシャーン・・・僕は笑顔のオーナーに軽く会釈をして、雨空を一度見上げてバス停に歩き出した。
運命の針が動いていることなど知るはずもなかった。


25歳の7月私は初めて恋を知った。
そう、君に出会って恋を知ったんだ。

今年の梅雨は台風ばかりで、傘を手放せないでいた。「もう7月なのに」いつも朝になると雨音で目が覚めていた。通いなれない国道14号線のわき道を入ったところにある図書館に今年の4月に配属が決まった。
私がこの町に来てからというもの、雨の日ばかりで少しだけ心が沈んでいた。
お昼休み図書館内の1階フロアのベンチで、形の悪いおにぎりを食べるのが私の定位置だった。毎日いびつな形をしたおにぎりを見て「もっと、お母さんに料理教えてもらえばよかったな」そう思う毎日を過ごしていた。
「宇川さん、今日もかわいらしいおにぎりね」職場の館長さんは優しくて、心があったかくなる言葉を私にくれた。「料理なんて全くできなくてお恥ずかしい限りです」私の少し照れた言葉に「手作りおにぎりってその人の気持ちが入るから、絶対においしいものなのよ、お食事中にごめんなさいね」笑顔で私の肩をポンとたたくと手を振りながら図書館内に入って行った。(そうなのかな・・・)館長の言葉が嬉しくてにっこりしてしまう。

< 2 / 10 >

この作品をシェア

pagetop