お願いだから、つかまえて
部屋につくと、私はまず紅茶を淹れた。
修吾は私服に着替え、私たちはダイニングテーブルに向かい合って座った。
さて、何から、どう話そう。
今なら落ち着いて話せる気がした。
謝らなければいけないことも、仕事のことも。
だけど、口を開いたのは修吾が先だった。
「…この数日、よく考えたんだ。理紗のこと。」
それなら、ちゃんと聞かなくちゃ。
別れを切り出されたって、何だって。
「まず、もう一度謝らせてくれ。こないだのことは、本当に悪かった。情けなく嫉妬したんだ。どうしても抑えられなかった。
それで、だけど…どんなに考えても、俺には、理紗を失うなんてことはどうしても考えられなかった。もし、理紗が許してくれるなら」
どこに隠していたのか、修吾がテーブルの上に手を出した時には、小さな四角い小箱を持っていた。
中を見なくたって、ひと目で何かわかる。
「…修吾」
「もっと早くこうするべきだったんだ。待たせてごめん。…待ってくれて、ありがとう。結婚しよう。」
修吾が箱を開けた。それは大粒のダイヤが光る、プラチナリングだった。
どうして、今。
なんで?
あれほど欲しかったはずのそれを前に、頭が真っ白になった。
喉がカラカラに乾いたのに、紅茶を飲むことも忘れて、私は言葉を失った。
何を言えばいいのかわからない。
いや、わからないじゃなくて、話さなくちゃ。