お願いだから、つかまえて
「…修吾…私、…」
今から言わなくたって、もう修吾にはわかっているはずだ。
それでも言わないと、駄目だ。
「私…浮気したよ。」
緊張した。
「あの時、わかってたと思うけど。…あの人と、私、」
「いいんだ。」
修吾が遮った。
聞きたくない、というより、聞く必要がない、というように。
その顔には迷いも動揺も見られなかった。
「良いわけないよ。私裏切ったんだよ、修吾のこと。これを貰う資格、ないよ。」
「いいんだ、理紗。」
テーブルの上で固く組んでいた私の両手を開いて、修吾はそこに小箱を置いた。
「一回のことで別れたりしたくないんだ。理紗とずっと一緒にいたい。…すぐに答えられないなら、考えてくれて、いいから。」
どうして。
許せるの?
浮気なんか、修吾はあり得ないでしょう。
そういうところは特に、潔癖なはずなのに。
「俺、別れる気ないから、絶対。」
もう一度駄目押しのようにはっきりそう言って。
修吾は私の両手を、両手で包んだ。
どうしよう。
本当に、身動きが取れなくなった。
私は、力なく頷いて、消え入りそうな声で、考えさせて、とだけ言って。
仕事の話なんか切り出せるわけもなく、どうやって修吾の部屋を出て家に帰ったのか、覚えてもいない。