お願いだから、つかまえて
とにかく、香苗に会いたかった。
翌日、山園さんとの新居への引っ越しのために、もうあらかた荷物は片付いている香苗の一人暮らしの部屋に、久しぶりに向かった。
「いらっしゃーい…って、何その顔。」
「香苗ぇぇぇ〜…」
ドアを開けるなり、私は香苗に抱きついた。
「やっぱりあんた相当なんかあったでしょ? 心配したんだから。とりあえず入って。」
「うー、香苗、ごめんね、こないだ。せっかくのお祝いの日だったのに…最後までいたかったのに…」
私はずっと胸につかえていたそれを言った。
香苗は、そんなこといーから、と笑い飛ばして、私を部屋へ引き入れてくれた。
温かいコーヒーと、お菓子を用意して、もうリサイクルショップに売るのだというテーブルにセットしてくれていた。
「ねえ、佐々木くんと何かあるわけ?」
どこから話したらいいのか、とぐずぐずコーヒーをすすっている私に、よっぽど気になっていたのか、香苗がまずそう聞いた。
「パーティーの日、三人で何か揉めてたでしょ。あれ修羅場? 佐々木くんは貝になってるし。片付けの時、ものすごい役に立ったけど。」
「うん…実はね。」
それからやっと、私は佐々木くんとの経緯を香苗に話した。
香苗は、はあー?! とか、へえー、とか言いながら、遮らずに聞いてくれる。
パーティーの、ベランダのところまで話し終えると、香苗が何か感心したように言った。
「まさか、あのぼーっとした何考えてるかわかんない男とねえ。だけど、あたしパーティーの時、初めて気づいたけど、あれ結構イケメンよね。」
「そーなのおー、ものすごくタイプなのおー」
ここまできたら何も隠しだてしまいと、私はテーブルに突っ伏して身も蓋もないことを口走る。
「初めて会った時点でそれに気づく理紗がすごいわよ。さすがよ。あたしなんか、あの日初めてあの男の顔を知ったような気分よ。こんな顔してたっけ? って。」