お願いだから、つかまえて

恥ずかしかった。考えていることも恥ずかしいし、それを言っていることも恥ずかしい。

「あたしも理紗も、できること必死にやってるだけだよ。そうでしょ?」
「…はい。あと…」
「まだあんの?!」
「いや、なんていうか…私、自分が恋愛沙汰でこんな、浅はかな真似をする人間だと思ってなくて。なんか、口に出せなくて。」
「馬鹿ねえ…」
「まだ言うのそれ?」
「高尚な恋愛なんてあると思ってんの?」
「…………」

それもまた、その通りだった。私は本当に馬鹿だ。

なんだか、馬鹿馬鹿言っているうちに、香苗は勢いづいてきて。
というか、ふつふつと怒りが湧いてきたようで。

「大体、矢田さんもねえ、おかしいわよ。このタイミングでプロポーズなんて。」

にわかに修吾を責めだした。

「何が待ってよ? 何が忙しいよ? 何が仕事で頭いっぱいよ? 他の男に取られると思ったら、急に慌てだして。時間あるんじゃない。金曜の夜に指輪用意できるくらいの時間あるんじゃない! なんでさっさとそれをしないのよ。舐めてたのよ、結局、理紗のこと。」
「えええ…」
「矢田さんは何も悪くないとかどうせ理紗は思ってるんだろうけど。充分悪いからね?
絶対理紗が他に行くことなんかないって、胡座かいてたのよ。いい気味だわ。横から佐々木くんがスライディングしてきて、おたおたして。
こんないい女を放置してたことをせいぜい後悔すればいいのよ。」

まさか同意はできなかったけれど。
自分ばかりが救いようのない愚かな行いをしたと思っていたから、そういうふうに言ってもらえるだけでも、少し心が軽くなった。

もちろん、自分のしたことが許されるわけじゃない。
修吾にどんなことを言われたって、何をされたって、それは受け入れなくちゃいけない。

でも、結論が出た。
あの指輪は返して、とにかく、謝るんだ。

後に何があったとしても、それだけはするんだ。


部屋を出る時、香苗にもう一度、頑張れ、と背中を押されて。
背筋の伸びる思いで、家に帰った。



いつものように、ただいまー、と声をかけながら居間に入ったら。






ーーお祖母ちゃんが、倒れていた。








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