お願いだから、つかまえて
9. つかまえた!
「お祖母ちゃん…?」
お祖母ちゃんはうつ伏せに倒れていて、傍らには湯飲み茶碗が転がって、お茶が零れていた。
どう見たって突然倒れたに間違いなかった。
「…き、救急車…」
一人で呟いて、鞄からスマホを取り出す。
救急車、って、110番だっけ。119番だっけ?!
パニックだ、とそれでも頭の片隅に居る冷静な自分が思う。
「落ち着いて、大丈夫…」
声に出して自分に言い聞かせて、スマホをタッチする。
でも、駄目だった。信じられないくらい、両手は大きく、ガタガタと震えていて、思うように番号を押せない。
指は一か所に留まらず、番号ひとつひとつがとてつもなく狭い幅に思えてくる。しまいには、スマホを取り落とした。
「ーーもう!」
駄目だ。私、これは永遠に打てない。
私はスマホを拾わず、足をもつれさせながら走って、家の電話に飛びついた。
落ち着いて、落ち着いて。落ち着いて!! うちの住所、なんだっけ?
「もしもし…救急車、お願いします。祖母が倒れています。」
人に伝わるように、それだけ言うのも異常に体力を消耗した。
ーーしっかりしろ、私!!
「死んじゃやだよ…!!」
電話を切ってから、私はお祖母ちゃんにすがりついて叫んだ。
ーー救急車は、すぐに来て。
迅速で、冷静な人たちがとても頼もしくて、私はやっと少し震えが収まるのを感じた。
だけど、運び入れられた病院で、手術中、と赤いランプが光る前で一人座っていたら。
また、身体中がガタガタと上下に揺れだした。
両腕で体を抑え込んでも、止まらない。