お願いだから、つかまえて
どうしよう。お祖母ちゃんが、死んじゃったら…
それは考えたくなくても、薄暗闇に一人で取り残されていたら、どうしても過ってくる。
お祖母ちゃんの笑顔が、脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
中学生の時から、ずっと同じ家で暮らしてきたお祖母ちゃんは、私のことを叱ることなんてほとんどなくて、そういえば、いつも笑っていた。
子どもにだって、お祖母ちゃんにいかに感謝しなければならないか、いかに頭が上がらないか、わかっていたから、反抗期らしいものも私には訪れなくて。
私たちはいつだって仲が良かった。
両親が亡くなって、私にはお祖母ちゃん以外に身寄りがいなくなってしまったけれど、孤独を感じたことなんてなかった。
だけど、私はちゃんとお祖母ちゃんを思いやれていたんだろうか?
私はちゃんとお祖母ちゃんを大事にできていたんだろうか?
もっと、孝行できたんじゃないだろうか?
…違う、こんなことは考えなくていいんだ、だって、お祖母ちゃんは死んだりしないんだから。
神様、どうか。
お祖母ちゃんが死んでしまったら、私は…
取り落としたはずのスマホを、どうやらしっかり鞄に入れてきていたらしい、と気づいたのは、バイブの音に気づいたからだった。
私は震える手で苦労して鞄を開け、スマホを手にした。
ディスプレイには、思いもしなかった名前。
"佐々木怜士"
ーーどうして。
今まで、電話をくれたことなんて、一度もなかったくせに。
「あ、もしもし。理紗さん? やっぱりちょっと話し……理紗さん?」
佐々木くんの声が訝しげに曇る。電話越しだと、少し低く聞こえる。
「もしもし? 聞こえる? 理紗さん?」
そういえばこの人は、いつから私のことを当然のように下の名前で呼ぶようになっていたんだっけ、とか、全然関係のないことが思考をかすめる。
「もしもし、何かあった?」
「…さ、さき、く…」
…声が出た。
「佐々木く、」
「どうしたの。大丈夫?」