お願いだから、つかまえて
月曜日になって、家を出る前に突然、修吾に連絡をしていないことに気がついた。
そもそも、連絡すべきなのか、どうか。
でも、隠しておくのもどうなんだろう。
少し、悩んだけれど。
やっぱり知らせておこう、と決めて、昼休みに修吾を呼び出した。
「ごめんね、忙しいのに…」
「いや、いいけど。返事なら、急がないし、夜ゆっくり聞くけど…」
それならと言って修吾が指定した会議室は、そういえば数か月前のこれくらいの時間に、キスをしていた部屋だった。
あの時は、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
「ううん、あのね。一応、知らせておかないといけないかな、と思って…お祖母ちゃんが一昨日、倒れたの。」
「え?!」
修吾が珍しく驚いた。
「一昨日って…大丈夫なのか?」
「うん、昨日検査も終わって。今後気を付けないといけないけど、とりあえず大丈夫だって。」
「それなら、よかったけど…早く知らせてくれればよかったのに。」
「うん…そうだよね。なんか…いろいろあったから、タイミング、難しくて…」
この期に及んで、すっかり忘れていた、と正直になる気も起こらなかった。
ああ私、些細なことで気分を落とさずにいてもらうために、この人に対してこういうふうになんとなく言葉を飲み込んできた感じが、きっと良くなかったんだな、と思う。
彼にお願いされたわけでもないのに。それがベストな選択肢だと、思い込んでいた。
修吾は本当に心配してくれて、忙しいのは今だって変わらないのに、仕事を早めに切り上げてお見舞いに行くから、と言ってくれて。
じゃあ一緒に行こう、ということになった。
会社から直接病院に向かった。
たった二日出入りしただけだけど、私はもう勝手知ったるみたいな気分になっていて、迷わず病室まで案内する。
個室ではないけれど、そこは静かで。
遅めの夕陽が差し込んでいた。
お祖母ちゃんには先客があった。
変だな誰にもまだ知らせていないのに、と思いつつ、逆光で顔がよく見えず、気づくのが遅れた。
「お前…」
それが佐々木くんだと気づいたのは修吾が先だった。
「…あ。すみません。すぐ出ます…じゃあお祖母さん、また。」
あ。
私、あれだけお世話になったのに、お礼の連絡ひとつしていない。
佐々木くんが心配になって来てくれるのは、当然のことだった。
佐々木くんが謝るのも、おかしいし。