お願いだから、つかまえて

私はほとんど呆然としていて、止めるのが遅れた。
佐々木くんがここまで言うとは思いもしなかった。

「ごめん、今日は帰って。本当にごめんなさい。修吾…手を、離して。お願いだから…」

修吾が思いとは裏腹に、握りしめていた手のひらをなんとか広げてくれた。
佐々木くシャツの襟元が皺になって、落ちた。

「…すみません。」

佐々木くんが眼鏡のフレームを押さえて謝る。

「ううん。こっちこそごめんなさい。」

私が首を振ると、佐々木くんはそれ以上何も言わず、さっさとその場を離れた。

「ごめん、修吾…」
「なんで理紗が謝るんだよ。」
「なんでって…」

修吾はさっきまで佐々木くんを押し付けていた壁に寄りかかり、髪をくゃくしゃにかき回してため息をつく。

「今日はお見舞いやめよっか。ね。ちょっと待ってて。」

修吾は、うんとは言わなかったけれど、パタパタと病室に入っていく私を追いかけようとはしなかった。

私がお祖母ちゃんに会って用事だけ済ませてくると、修吾は気持ちを落ち着けてくれたようで、態度もいつも通りに戻っていた。

病院を出ると、前にこのへんで一緒に入った美味しいイタリアンがあることを私たちは思い出し、久しぶりに行ってみようということになった。
あそこは確か、個室もあったし。
ゆっくり話せるだろう。

このままじゃ、修吾だってどんどん嫌な思いをするんだ。それにやっと気がついた。

許されることじゃないけれど、謝って、きちんと終わらせなくちゃ。

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