お願いだから、つかまえて

長く一緒にいたから。
どうやって楽しく会話をするかなんていうことは、お互いわかりきっていて。
私たちは、何もなかったかのように料理を堪能したけれど。

私は、デザートが来る前に、修吾に預けられていたま一度も開けなかった小箱を、静かにテーブルに置いた。

「修吾。…ごめんね。やっぱり、これは受け取れない。」
「………」

修吾は表情を変えずにそれをじっと見つめた。

「俺、本当に気にしないよ。理紗が気に病んでるんだったら、本当に…」
「ううん。」

私は首を振った。
ああ、これを誰よりも修吾にまず、言わなくちゃいけないんだなあ、と。
少し哀しいような、…切ないような、今まで味わったことのない気持ちで。

「…あの人が好きなの。」

修吾はまた黙った。
まだ指輪に手を伸ばそうとはしない。

「俺と別れて…あいつと付き合うの?」
「…それはわからない。あの人が私をどう思ってるのか、わかんないし。」

修吾は苦笑を漏らした。

「好きだろ。あれは。」
「私からはっきり、伝えたいとは、思ってるけど先のことは全然…」
「なんであいつなの? 俺じゃだめなの? 俺たち…うまく、いってたろ?」
「…うん。すごく。」
「待たせてたのは、謝るよ。その間に理紗の気持ちが離れたなら、取り戻す努力するよ。今度は俺が待つから。」

私に残されたのは、正直に全部話すことだけだった。
それが修吾の心をさらに抉ることだとしても。

たった一回の浮気。
だけど、これが人を裏切るということなんだと、初めて知った気がした。
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