お願いだから、つかまえて
デザートが運ばれてきた。
ウェイターが、テーブルの上の小箱をちらっと見て、私たちの全然おめでたくない雰囲気に気を遣い、見ないふりをして出ていった。
修吾がようやく深々と息をついた。
「…わかった。」
私もそれを聞いて、詰めていた息を吐く。
「あいつの言うとおりだな。俺が自分のことばっかりで、理紗のことをちゃんと考えてなかったんだ。理紗の変化にも気づけなかった。」
「…そんなことない。修吾はいつも優しかったよ。」
私が首を振ると、修吾は目を伏せて寂しげに微笑した。
「香苗ちゃんのパーティーの時にさ。初めてあいつと居る理紗を見た時…俺、びっくりしたんだ。…ずっと付き合ってたのに、理紗のあんな顔、見たことなかったから。」
「…どんな顔?」
「言わせんのかよ。」
「え。…ごめん、なんでもない…」
だけど、修吾は優しい顔で私を見た。
「好きな男に見せる顔。…綺麗だったよ。綺麗で、色っぽくて、また惚れた。で…異常なほど嫉妬した。」
「………」
「俺の負けだよ。」
あーあ、と言って、修吾はひょいと指輪の箱をテーブルから取り上げてしまうと、デザートのガトーショコラを食べだした。理紗も食べれば、と言われて、私もティラミスにスプーンを差し込む。
この人は最後まで、こんなにも優しい。
この人を大好きでいられたら。
この人に心をつかまえられていたら。
私はとても、幸せだったはずなのに。
どうしてそれができなかったんだろう。