お願いだから、つかまえて
「あ、土曜なんだけど、また出社しないといけなくて。ゆっくりできなくてごめんな。日曜飯でも食べに行こう。」
「あ、うん。土曜は私も予定あるから気にしないで。」
「そうなの?」
並んで腰掛けた私の左手をもてあそびながら、修吾は顔を上げた。誰と? とその眼差しが言っている。
「香苗たちとね。こないだお花見行った話したじゃない? そのへんのメンバーがまた集まるみたい。」
「…男もいるの?」
「いるけど…」
私はあえて可笑しそうに笑ってみせる。
「香苗がね、山園さんと…あ、山園さんて、香苗が好きな人。その人とくっつきたいが為の、お膳立ての会だから。心配ないよ。」
「ふうん。」
修吾は行くなとは言わないけれど、面白くなさそうだ。
「理紗、美人だから心配だな。気をつけろよ。」
「ないない、なんにも。美人なのは香苗だから、何かあるとしたら香苗のほうだよ。あの子、下手な男より虫除け効果絶大だから。」
「俺は理紗のほうが好みだけどなあ…」
修吾のそれは、本心だと私にもわかる。
恋は盲目というか、ピンクフィルターが未だに衰えないというか。
修吾には、私が誰より美人で可愛く、いい女に見えるらしい。
自慢じゃないけど、28年、モテたことなんかないし、修吾と付き合い始めてからことあるごとに外見から内面から褒められて、嬉しかったし自信にもなったけれど、
その恋の魔法がいつ解けるのか、いつ修吾が現実に気づいてしまうのか、不安もあったけれど。
二年経った今も修吾は相変わらずで、本当に私という女がただ単に彼の好みで、ストライクというだけのことだったのかも、と私は納得してしまっている。