お願いだから、つかまえて

私は胸の前で手を振った。

「なんであんなこと言ったんですか。」
「なんでって。」

佐々木くんは意外そうに目を上げる。何も変な質問してないと思うんだけど。

「ていうか、全体的に、佐々木くんの行動ってよくわからないっていうか。」
「そうですか? 結構わかりやすいと自分では思ってますけど。」
「………」

えっと。
佐々木くんに告白をしようとは、思っていたけれど。
それは今なのかな?
さっき修吾と別れてきたばかりで、節操ないけど。
今更節操も何もないんだけど…
というか、心の準備が。

…いや。
もう、この際だ。

私は意を決して口を開いた。

「…あの、」
「露骨なアプローチは、しても意味がないかなとは確かに思ってました。」
「…は。」

いきなり出鼻を挫かれて、私は間の抜けた声を出す。
佐々木くんはいつも唐突だ。

「理紗さんは、理性の人だし律儀だから、恋人がいるなら、正面から付き合ってくれって言われても、断るでしょう。」
「え…いや、あの。」
「だからああいう行動に出ました。」
「…はあ。」
「多少は悩んでくれたでしょう?」

なんでそこで。
真っ直ぐ目を見てくるのかな。
ドキッとする。

「多少…というか、かなり…」

ていうか、この流れは、一体。

「僕を選択肢に入れて欲しかったんですよ。」

選択肢って。

「…だけど、まさか、泣くほど追い詰めるとは思ってませんでした。」
「あ…」

あの、雨の日。
色々あって、私にはもうずいぶん昔のことのように思えたけれど、佐々木くんにはそうではないようだった。

「あれには、参りました…」

佐々木くんは手元のマグカップに目を落として少し自嘲的な笑みを浮かべた。
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