お願いだから、つかまえて
「お陰さまですごく悩みました。毎日佐々木くんのことばっかり考えてました。振り回されました。佐々木くんの勝ちです。」
佐々木くんは、はあそれはどうも、とか口の中でもごもご言っている。変な人。
「…あなたみたいな人に恋人がいないわけがないと思ってたから、別に彼氏がいても驚きませんでした。だけど、諦めるつもりはなかったし。」
「修吾とは、別れてきました。今。」
「え。」
だから、なんでそこで驚くの?
「こうなる自信があったんじゃないんですか?」
「…自信…というか…彼と比べて、僕が優れているとか…そういうことは、思ってないですけど。でも…」
なんでもさらっと、この人は言うから。
宝探しみたいに、会話の中に大事なことを見つけなくちゃならない。
「…僕と居たほうが、理紗さんには、自然でしょう。」
こんな殺し文句を、トーンを変えずに言うから。
「何それ。むかつく!」
私は浮足立った声を出してしまって。
マグカップをテーブルに置いて立ち上がり、佐々木くんの隣にぽすっと座って。
それから隙だらけの佐々木くんの唇にちゅっとキスをした。
「………」
佐々木くんは表情を変えないけれど、きっとそれは驚いているからで、身じろぎ一つしなかった。ていうか、硬直していた。
私はソファの上に膝立ちになって、その頭を胸に抱え込んだ。
「…はあ。やっと、つかまえた。」
そう言うと。
は? とくぐもった声がして、佐々木くんは私の腕をどけて上目遣いで見てきた。
「それを言うなら逆なんじゃないですか? 僕がやっとあなたをつかまえたんじゃないですか?」
「そこ、意地張るところなんですか?」
笑った唇を、下から柔らかく塞がれて。
それはそれは甘いキスをされた。