お願いだから、つかまえて
10. 幸せ…


翌朝、目が覚めると、コーヒーのいい匂いがした。
コーヒーのいい匂いで目が覚めた、という方が良いのかもしれない。

「あ。おはようございます。勝手に台所使ってます。」

ぼーっとしながら二階の部屋を出て、居間を通り台所に入ると、窓から朝陽を浴びた佐々木くんがいた。

「おはよ、ございます。早いですね…」

まだ朝の5時半だ。

「まあ…煩悩でよく寝れなかったというか。」
「………」

昨日は、やっと想いが通じ合ってソファでキスを繰り返し、どう考えてもそのまま抱き合う流れではあったけれど。
私はお祖母ちゃんのことがあってただでさえ憔悴していたのに、修吾との別れ話、佐々木くんへの告白(?)と立て続けに緊張して、かなり体力を消耗していたらしく、ほっとしたらもう睡魔にがっつり捕まってしまった。

どんどん瞼が下りてくる私に、今日は帰りますと佐々木くんは言ったのに、意識が遠のくのに任せて、一人になりたくないと言った…ような…気がする。

「…昨日は、すみませんでした…我儘言って…」
「いいですよ。可愛かったし。」

…恥ずかしい。
お祖母ちゃんが入院して、この家はガランとして、私はかなり堪えていたから、佐々木くんに甘えてしまったんだ。

自分のシングルベッドで、彼に抱きしめられながら焦がれた眠りに落ちて、私は幸せだったけど。
佐々木くんは服も昨日のままだし。

「もしよければ、お風呂入っていって下さいね。」
「ああ、有り難いですねえ。」

せめてもの罪滅ぼしで言った台詞にのほほんと返されて、ああ本当に全然気にしてない、とわかって、安心した。

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