お願いだから、つかまえて
「このへん、コンビニあります?」
ただのオムレツを、どうやったらこんなにおいしく作れるんだろうと思いながら佐々木くんが作ってくれた朝ご飯を一緒に食べていたら、佐々木くんがそう言った。
「替えの下着を買いたいんですけど。」
「あ、そうですよね。食べたら一緒に行きましょ。」
二人で家を出て、朝の澄んだ空気の中を歩いていたら、ちょっと今までにないくらい、満たされた気分になった。
どうしてもくっつきたくなって、手をつかんだら、佐々木くんがちゃんと繋ぎ直してくれた。
どうしよう。こんなことが、ものすごく幸せ。
「ねえ、本当に私でいいんですか?」
「はい?」
佐々木くんは不思議そうに私を見下ろす。
握り締めるでもなくつかみあった手が温かい。
「私、浮気するような、昨日まで別の人と付き合ってたような、どうしようもない女なんですけど。」
「そうさせたのが僕なんだから、不可抗力なんじゃないですか。本来理紗さんがそういう人じゃないことくらい、わかってますよ。」
「………」
じわっと、涙が滲んで、言葉が出なかった。
いいのかな、こんなに幸せで。
「えっ、どうしたんですか。」
佐々木くんはどうやら本当に泣かれるのが苦手みたいだ。
「慌て過ぎです。」
「元来理紗さんが泣き虫だと言うなら認識を改めますけど。結構、レアなイメージがあるので…」
「泣き虫じゃないです。幸せすぎて、泣けたんです。信用できないかもしれないけど、絶対浮気とかしないから、捨てないでね。」