お願いだから、つかまえて
まさか自分がこんなことを言う日が来るとは思ってもいなかったけれど、後ろめたいことをしておきながらこんなに幸せなのは、少し怖くて。
目尻を拭いながら言った私に、佐々木くんが真顔で答えた。
「今更、手放したりすると思いますか? 冗談じゃないですよ。」
ちょっと怒ってた。
でも嬉しかった。
「はい。ごめんなさい。」
「わかってるでしょうけど、僕だって諸々の行動に出るような性格じゃないんですよ元々。かなり賭けでしたよ。」
「…はい。」
「そこまでしたこっちの気持ちを信用してほしいですね。必死だったんですから。」
「必死…には見えなかったですけど。」
「そりゃ鬼の形相にはならないですけど。表情筋の機能が乏しいので。」
「ほんとですよね。びっくりしました。あの、…最初の時は…」
佐々木くんはまた嫌そうに黙る。
「…僕の気持ちなんか、薄々わかってましたよね? 予想できたと思いますよ。」
「わかってたっていうか…」
たぶん、惹かれ合っていた、という感覚なんだろう。
私に彼氏がいなければ、気持ちの確認なんかはお互いスムーズにできていたはずで。
ただ、びっくりしたのは、あの行動そのものについてだ。
佐々木くんみたいな、あまり男くさい感じが無い人に、突然求められるのは、生理的に用意ができていなかったから。
「佐々木くんて…性欲とか、あんまりなさそうだから…」
恐る恐る、言ってみると。
ああそういうことか、と言うように佐々木くんは合点がいった顔をした。
「…まあどちらかというと淡白なほうかと思いますけど。理紗さんのことなら、永遠に抱ける気がしますね。」
「…永遠にって。」
「あ、コンビニ、ここですか。ゴムも買いましょうか。」
「ちょっ…」