お願いだから、つかまえて

「なーんか、つやつやしてますけど。理紗さん、いいことありました? 遂に結婚ですか?」

友理奈ちゃんが、おはようございますも言わずに私を一目見てそんなことを言ってくる。
一瞬、修吾が目を上げたのも、長戸さんが殺気立った視線を向けてきたのも、視界の端で捉えてしまった。
友理奈ちゃんの声はよく通るんだ…

「…友理奈ちゃんちょっとお手洗い行こうかー」
「遅刻ギリギリで来て余裕の発言ですねえ。」
「いーいーかーら!」

私は不自然にニコニコと笑いながら友理奈ちゃんをトイレに引きずり込んだ。

「あれ? いつもより綺麗だと思ったんですけど、メイクはいつもより薄いんですね。やだな〜一体どうしたんですか?」

この子はっ!
妙に鋭いんだから、ほんとにっ…

「友理奈ちゃん、今日からはそういう発言は禁止します!」
「そういうって?」
「だから結婚とか恋愛とかそういう類の話!」
「なんですか、どうしたんですか一体…矢田さんに何か言われたんですか?」
「じゃなくて! もう…」

大声出さないでよ、絶対だよ、としつこく約束させてから言った。

「別れたから。」
「え…」

友理奈ちゃんは両手できつく口元を押さえた。
声をひそめて、えええー?! と言い直している。

「だからほんとに、勘弁して。そっとしといて。」
「えっ、どういうことですか、もう新しい彼氏いるんですか?」

何故わかる!

「イヤ理紗さんつやつやだし、なんかピンクのオーラ出てますよ、ラブラブなんじゃないですか!」
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