お願いだから、つかまえて
「理紗さん、こっちこっち!」
遅刻はしていないはずだけれど、友理奈ちゃんは満面の笑みで待ち構えていて、相変わらずよく通る声で呼んで手招きしている。
「初めまして〜、理紗さんの後輩で大変お世話になっておりますー、前田友理奈ですー!」
異常なまでに友好的だ。
私が怪しんだ視線を送ると、向こうも向こうで私ににんまりと何か言いたげな眼差しを返してくる。
…つやつや、してるんだろう。
口に出さないでおいてあげますよ、という台詞がテレパシーで伝わってきて。
私この平成生まれの、価値観がぴったり合うわけでもない後輩と、ずいぶん仲良くなったんだなあ、なんて…
「どうも、佐々木怜士と申します。」
「怜士さんはあー、理紗さんのどこを好きになんですか?」
…しみじみ実感してる場合でもなくて。
切り込み早すぎ! 怖い、この子ほんとに。
「あ、生ビール二つ…」
全然動揺しないで佐々木くんは友理奈ちゃんがしっかり、既に一人で飲み始めていることを確認して私のぶんまで聞きもしないで注文してくれる。
「そうですねえ…まあ、好きじゃないところを探すほうが難しいですけど…」
あまりに淡々とした言い方なので友理奈ちゃんの思考にそのちょっと恥ずかしい台詞が浸透するのに時間がかかったみたいだ。
「……全部好きって言いたいんですか?!」
「あぁ…端的にまとまりましたね。」
感心するとこじゃないんだってば。
友理奈ちゃんはヤダーシアワセーとか言いながら、何の変哲もない居酒屋メニューをパラパラと広げ始める。