お願いだから、つかまえて
じ、地獄だ。友理奈ちゃんはからかってるんじやなくて、真面目に言っている。こんなの拷問だ。処刑だ。
「あ、逃げ出そうとしてる。ダメですよ、これから馴れ初めを聞くんですから…きゃっ!!」
半分腰を上げかけた私を制そうと、友理奈ちゃんが私に手を伸ばそうとした時、勢いあまってその肘がジョッキに当たった。
倒れかけたそれを咄嗟に佐々木くんが抑えて、ジョッキは無事だったけれど中身のビールが飛び出し、佐々木くんの顔に直撃した。
「ぎゃー、ごめんなさい! 大丈夫ですか! すいませんおしぼり下さーい! ほんとごめんなさい!!」
「いえいえ、お気になさらず…」
佐々木くんが軽く頭を振って、ビールまみれの眼鏡を取る。
私は店員さんが慌てて持ってきたいくつかのおしぼりを受け取り、佐々木くんに渡しながら眼鏡を拭いてあげた。
「大丈夫? 髪、まだ濡れてる…」
「え?」
私が言うと、濡れた前髪を指先で掴んで、佐々木くんが顔を上げた。
その瞬間、バタバタとそこら中を拭いていた友理奈ちゃんが、息を呑んだ。
「…ああ、ほんとだ。これ、ちょっと洗面所行ってきます、僕。」
「あ、はい、眼鏡。これも洗った方がいいかもですね。一応拭きましたけど…」
「あ、すみませんどうも。」
のっそりと佐々木くんは洗面所に向かっていった。
「…ちょ、ちょっと反則じゃないですかあの人、イケメンじゃないですか?!」
「あ、気づいた? 自覚ないみたいなんだけどね。」