お願いだから、つかまえて

「溜まってるなら、今夜行くから。」
「溜まってるとか色気のない言い方すんな。」
「だって30のおじさんがこんなとこでサカって…」
「どっちが失礼なんだよ。」

不貞腐れたように言いながらも堪えきれずに修吾が笑いだして、私もくすくす笑ってしまった。

「あー、だいぶ復活したわ。午後も頑張るわ俺。」
「うん、頑張って。ご飯作って部屋で待っててあげるから。」
「まじ天使。ほんと今すぐ結婚したい。」
「それどころじゃないって言ってるの、修吾のほうだよ。」

修吾が目に見えてしゅんとした。
いい年した男女が、二年も付き合って、まだ結婚していない。周りにも急かされる。
だけど、修吾はそういうことはきちんと手順を踏みたいと言って、仕事に忙殺されている今、結婚は後回し後回しになっている。

きちんとプロポーズする。田舎の両親に会わせる。できれば結納もしたいし、結婚式はきちんとしたところでやりたい。ドレスも結婚指輪も一緒に選びたい。

そんなふうに言うのは、彼がキッチリした性格だからというのもあるだろうけれど。
私が祖母に育てられて、未だに祖母と二人暮しで、結婚するまでは祖母を放って同棲なんてする気がない、とはっきり宣言したからだと思う。

お祖母さんを安心させられるように、全部ちゃんとするから待ってくれ、と言われて。

不安はない。彼を信じられる。
だけど、手順とかそういうのより、早くお祖母ちゃんに結婚の報告をしたいな、なんて。

ちょっと、思ったりもしている。
言わないけど。
こんなに私のことを考えてくれている人に、言えるわけないけれど。
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