お願いだから、つかまえて
…あ。でも。
「でも、結婚式の時は髪はちゃんとセットして、コンタクト入れてくださいね。」
ふと口をついて出た台詞に、友理奈ちゃんがまた食いついた。
「結婚するんですね?!」
「結婚、してくれるんですか?」
同時に佐々木くんまで私の目を見て。
えっ?
「してくれるんですか? って…」
「保留にしてたじゃないですか。」
「えっ? え、いや、結婚自体に異論があったわけじゃなくて…」
私だってゆくゆくは、とはなんとなく思っていたわけで。
ただあのタイミングとか、トントン拍子すぎる感じについていけなかっただけで…
って、あれ、私、そうは言ってなかったっけ…
「…なんだ。よかった…」
佐々木くんが眼鏡の真ん中を触りながら小さく呟いた。
あれっ…
なんか私も、言葉足らず…なのかな。
不安に思われたり、してたのかな?
「わー、理紗さんが遂に結婚かー!」
友理奈ちゃんは無邪気にはしゃいでいる。
「結婚も決まって、正社員も決まって、上向いてきてるじゃないですか!」
「え、正社員、決まったんですか?」
佐々木くんがまた私を見る。
あれっ? それも言ってなかったっけ…
「え、そういう話しないんですか? 二人で。そういえばお互い、さん付けで呼んで、敬語ですよね。まだ距離があるんですか?」
「………」
佐々木くんをちらっと見ると、一見ポーカーフェイスを保っているようだったけれど、少し居心地悪そうなのが、肌で伝わってきた。
何もかもうまく行き過ぎているような気がしていても、ちゃんと話さないと、伝わっていないことは確実に溜まっていくんだ。
友理奈ちゃんが出逢いから何から聞きたがってくるのを、佐々木くんと代わる代わる答えられる範囲で答えながら、私は頭の隅で今日帰ったら佐々木くんと何を話すべきだろう、と考えていた。