お願いだから、つかまえて

きゃんきゃん言いながらも、結局例に漏れず私もそんな気分になってしまう。
怜士くんだけじゃなくて、私自身も、こんなふうになるなんて、考えたこともなかった。
二人で溶け合うような、あの気持ちよさを知ってしまったら。
もう、知らなかった頃には戻れない。

「今日はお祖母ちゃんのお見舞いに行きたいんだけど…」
「…夕方でもいい?」
「せめてお昼って言ってよ!」

私が身体を正面に向かい合わせながら叫ぶと、眼鏡を外している怜士くんが鼻先を合わせてきて、二人で笑って。
引き寄せられるように、キスをして。
その時。

ピンポーン…

あ、あれっ…
インターホンの音が家中に響き渡った。

「誰か来た…」
「居留守。」

にべもなく怜士くんが言い捨てて、キスを深めてくる。

「ん、ふ、…」

ピンポーン…

「怜士く…」
「いいから。」
「でも、ん…」

ピンポーン…

「…………」

怜士くんが嫌そうな顔をして、ため息をつくと。
のそのそと脱ぎ捨ててあったボクサーパンツとジーンズを履き、無造作にシャツを羽織り、部屋を出て階段を降りていった。

あ、出てくれるんだ…

私はくすっと笑ってしまった。

部屋着を着て、怜士くんが忘れていった眼鏡を持って、後を追いかける。

「あ、理紗。」

怜士くんが開け放った玄関のドアの前で、私を呼んだ。

「お友達。」
「え?」

気だるそうにドアにもたれかかりながら、明らかに寝起きで乱れた髪をかき上げ、半端に胸元をはだけたままの。
つまり、色気ダダ漏れのままの、怜士くんの向こうで。

口をあんぐりと開けた香苗が、立っていた。

< 146 / 194 >

この作品をシェア

pagetop