お願いだから、つかまえて
きゃんきゃん言いながらも、結局例に漏れず私もそんな気分になってしまう。
怜士くんだけじゃなくて、私自身も、こんなふうになるなんて、考えたこともなかった。
二人で溶け合うような、あの気持ちよさを知ってしまったら。
もう、知らなかった頃には戻れない。
「今日はお祖母ちゃんのお見舞いに行きたいんだけど…」
「…夕方でもいい?」
「せめてお昼って言ってよ!」
私が身体を正面に向かい合わせながら叫ぶと、眼鏡を外している怜士くんが鼻先を合わせてきて、二人で笑って。
引き寄せられるように、キスをして。
その時。
ピンポーン…
あ、あれっ…
インターホンの音が家中に響き渡った。
「誰か来た…」
「居留守。」
にべもなく怜士くんが言い捨てて、キスを深めてくる。
「ん、ふ、…」
ピンポーン…
「怜士く…」
「いいから。」
「でも、ん…」
ピンポーン…
「…………」
怜士くんが嫌そうな顔をして、ため息をつくと。
のそのそと脱ぎ捨ててあったボクサーパンツとジーンズを履き、無造作にシャツを羽織り、部屋を出て階段を降りていった。
あ、出てくれるんだ…
私はくすっと笑ってしまった。
部屋着を着て、怜士くんが忘れていった眼鏡を持って、後を追いかける。
「あ、理紗。」
怜士くんが開け放った玄関のドアの前で、私を呼んだ。
「お友達。」
「え?」
気だるそうにドアにもたれかかりながら、明らかに寝起きで乱れた髪をかき上げ、半端に胸元をはだけたままの。
つまり、色気ダダ漏れのままの、怜士くんの向こうで。
口をあんぐりと開けた香苗が、立っていた。