お願いだから、つかまえて
積もる話があるだろうから、と、怜士くんがブランチを作りに台所に行ってくれて。
私と香苗は、もうなんだか怜士くんのオフィスみたいな様相になってきている居間のソファに、二人で座った。
私はこの一週間のことを洗いざらい話した。
友理奈ちゃんに振り回され、土曜に連絡しなかったことを怒る以外は、香苗は黙って全部聞いてくれた。
「なるほど。話はわかった。とりあえず、よかった…」
修吾と別れて怜士くんに気持ちを伝える、と言ったきりだったから、香苗は万が一私が怜士くんに振られて、正社員の話までなくなっていたとしたら、どうしようもなく落ち込んでいるんじゃないか、泣いているんじゃないか…と気が気じゃなくて、家に居なかったらそのまま帰ろうと家まで来てくれたのだった。
「焦ったわ、とんでもない色男が出てきたから、トチ狂ってどっかでジゴロでも拾ったのかと…」
「ごめん…」
今日お祖母ちゃんのお見舞いに行くつもりだと話したら、私も行く、と言ってくれたところで、怜士くんがオムライスを三人分お盆に乗せて運んできてくれた。
「佐々木くん、そこに座りなさい。」
「はあ…」
私が渡した眼鏡をしっかり装着して、よれよれのシャツのボタンを胸元まで閉めた怜士くんはもう、香苗も知っている、『佐々木くん』だ。
「きちんと、理紗と付き合う気があるのね?」
「はい、それはもう。」
「本気で理紗を好きだと。」
「はい。」
「理紗を散々泣かせたことはわかってる?」
「はい…」
「理紗はね、矢田さんのプロポーズを断ってあなたとのところに来たのよ。」
「え?」
そうなの? と怜士くんが私を見る。
「香苗、そこまでは、話さなくても…」
「何言ってんのよ! そこまでさせたのよ、あんたは。覚悟あんの?」
もはや香苗は試験官のようだ。というか、これは、圧迫面接…
怜士くんはそれでもただ頷く。
「はい。」