お願いだから、つかまえて
「とか言って、ぶっちゃけさ〜」
香苗がいつにも増してきれいにマスカラを塗ってほどよくぱっちりとした目をうろんに細めて言った。
「実のところ理紗は、別にそんなに結婚したくないんじゃないの?」
「…いや、したいですよ、喉から手が出るほどに。」
「んーじゃなくて、要するに矢田さんとは別にってこと。」
「ええーっ?」
今日は土曜日、佐々木さんの一人暮らしのお部屋に、お邪魔する日だ。
その前にお茶でもしていこうと香苗に誘われ、こうして大学時代と変わらず延々とお互い喋り続けている。
「だって、言えない、なんてさ。そんなわけないでしょ、理紗がさあ。」
「何よ、私の慎まやかな乙女心を疑うっていうの?」
「言えるでしょ理紗は。ほんとにそう思ってるなら。別に今はいいやと思ってるから、わざわざ急かすようなことは言わないで、ずるずるここまで来てるんじゃないの?」
「………」
なかなか痛いところを突いてくる。
「そう、なの、か、なー…」
「いいけど。理紗が幸せなら。」
「…うん。幸せ、だよ。」
「まああたしは結婚しますけどね。近々山園さんとね。今度こそあんたなんか置いて結婚してみせるわ。」
「お、おう…頑張れ。」
香苗は、大学時代から彼氏が切れたことはほとんどない。私みたいに失業騒ぎがあったとか、恋愛には受け身だとかいうわけではないけれど、なんとなく今まで結婚の機を逃してきている。
彼女はこれで真面目なほうだから、自分に何か原因があるんじゃないかと悩んだみたいだけど。
私は本当に、ただただ縁がなかったとか、それこそ香苗自身がそこまで乗り気じゃなかったんじゃないのかなあ、と思っていて。