お願いだから、つかまえて
「あ、それで、拓哉くんはそのうち会社を辞めて、実家を継ぐって話だったのね。」
香苗がそこで納得している。
「今も口出しはしてるんだけどね。継ぐのはもうちょっと遠い話のつもりだったんだけど、運良く佐々木くんに知り合ったからさ。好機だし。お互い。」
「お互い?」
私は思わず首を傾げる。
「かなり名のあるところなんですよ、山園さんのご実家。」
「つまり、これが成功したら評判になるし、コネクションも一気に増えるってわけ。」
「というわけで、時期を見て、独立しようかと…」
「独立?!」
声を上げたのは香苗だった。
「IT社長ってことじゃない!」
「そんな華やかなものでは…一人だと規模に限度があるし、ちゃんとした形の会社にするか、フリーランスのまま個人業務委託的にするか、悩みどころではあって。すぐにというわけでもないし。ただ正直副業のほうで食べていけるくらいは稼げてはいるので、まあ、こう…うまくなんとか繋げていきたいなとは思ってます。」
「まあ僕からの依頼が、この先の方向性を決める良いきっかけになるってこと。」
「はあ、なるほど…」
私は感心して何度も頷いてしまう。
「何呑気にしみじみしてるの? 理紗、すごい青田買いしたんじゃない。さすがよ。」
「いや、ただどうしてもリスクは回避できないところがあるので…」
怜士くんが癖で眼鏡の縁を触りながらボソボソ言う。
「…それでもいい?」
ちらっと私を見て言う。
「えっ? それはだって、怜士くんの好きにしたらいいじゃない。」
「いや、そうだけど…」